採用支援の場で、社長を会議から外した理由
ある製造業の会社で、採用と定着の支援に入っています。その最初の打ち合わせで真っ先に決めたのは、社長にこの場へ入ってもらわない、ということでした。
費用を払ってくださっているのは社長です。その社長に「同席しないでください」と伝えるわけですから、失礼な話ではあります。それでも最初に決めました。ここを曖昧にすると、支援そのものが機能しないからです。
社長がいる場で出てくる「本音」は、予測である
社長が同席する場で出てくる本音は、本音ではありません。社長が聞きたいであろうことの、予測です。
これは、社員が嘘をついているという話ではありません。もっと厄介で、全員が無意識に翻訳しています。頭に浮かんだ言葉を、口から出すまでのわずかな間に、角の取れた表現へ置き換える。本人にも翻訳した自覚がありません。
だから質が悪いのです。嘘なら見抜けますが、翻訳は見抜けません。
沈黙も同じです。社長がいるときの沈黙は「言えない」で、社長がいないときの沈黙は「特にない」。同じ黙り方でも中身がまったく違います。前者を「特に問題はないようです」と受け取った時点で、その支援は終わっています。
情報が上がらないのは、悪意ではなく配慮
経験則ですが、「うちは風通しがいいので」と最初におっしゃる会社ほど、風は一方向にしか吹いていません。上から下にはよく通り、下から上には途中で何枚か壁があります。
社長が悪いという話ではありません。社長の耳に入る情報は、たいてい何段階かのフィルタを通っています。そしてそのフィルタは、悪意ではなく部下の配慮でできています。
- これを言うと社長が心配する
- まだ自分たちで解決できるかもしれない
- わざわざ耳に入れる話でもない
全部まっとうな配慮です。誰も悪くありません。
誰も悪くないから、放っておいても直りません。これが、個人の問題ではなく構造の問題だと言う理由です。
そして社長の側から、この壁は見えません。見えないというより、見えないことが壁の定義のようなものです。
外すのは情報を取る場であって、決める場ではない
念のために書いておくと、外すのは情報を取る場です。意思決定の場ではありません。決めるのは社長で、そこは動かしません。
むしろ逆で、取ってきた情報は、加工せずにそのまま社長に渡します。現場で出た言葉を、丸めずに持っていく。
これがよく効きます。私の経験では、加工されていない情報を持っていったとき、いちばん驚いて、いちばん早く動くのは社長です。動かないのではなく、届いていなかっただけ、というケースがほとんどでした。
つまり社長を外すのは、社長を信用していないからではありません。社長に、加工されていない情報を渡すためです。順番の問題であって、扱いの問題ではありません。
これは、外部の人間にしかできない
社内の人間が、社長に向かって「この会議には出ないでください」と言えるでしょうか。
言えません。言った瞬間に、自分の評価と、社長との関係と、下手をすれば来年の立場まで賭けることになります。そこまで賭けて言う義理は、雇われている側にはありません。当然のことです。
私は他人なので、言えます。そして他人なので、言ったあとも関係が続きます。外部というのは「嫌われても構わない立場」ではなく、嫌われずに嫌なことを言える立場のことだと思っています。
外部を入れる意味は、多くの方が思っているのとは少し違うかもしれません。ノウハウを持ってきてもらうことではありません。ノウハウは、今どき調べれば出てきます。
そうではなく、社内の誰も背負えないリスクを、外の人間が代わりに背負うこと。これが本体だと思っています。会議から社長を外す。言いにくい理由を、そのまま伝える。評価制度の不公平を、名指しで指摘する。どれも社内の人がやったら傷を負うものです。だから外から来た人間がやります。
まとめ
- 社長が同席する場で出てくる本音は、本音ではなく「予測」である
- 情報が上がらないのは悪意ではなく配慮のせいで、だから自然には直らない
- 社長を外すのは軽視ではなく、加工されていない情報を届けるため
- 外部の役割はノウハウの提供ではなく、社内の誰も背負えないリスクを背負うこと
もし「うちは風通しがいい」と思っている経営者の方がいたら、一度、自分がいない場で何が話されているかを想像してみるといいかもしれません。たいていの場合、思っているより多くのことが話されています。
